地域が求める緩和ケアを。

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自治体病院の使命として、住民が必要とする医療を、提供し続ける。

西尾市民病院

がん患者の増加とともに、高まる緩和ケアへのニーズ。
だが、西尾市にはそれに対応する入院病棟を持つ病院が存在しない。
そこで平成21年、西尾市民病院に発足したのが「緩和ケアチーム」。
チームの熱心な働きかけにより、緩和への意識が病院全体に広がる。

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がん患者が望む、安寧な最期のために、病棟とチームが動く。

「印象深い患者さんといえば…」。西尾市民病院の緩和ケアチームに所属する、がん性疼痛看護認定看護師・西村かおり。ある患者との出来事を静かに語り始めた――。

平成29年4月、西尾市民病院に男性患者が救急搬送されてきた。末期の食道がんを患っている。その2カ月前に、同院の主治医から終末期であると告知されたが、患者とその妻は、積極的治療を行わず症状を和らげることで生活の質を高める、すなわちBSC(ベストサポーティブケア)を希望し在宅療養に入っていった。しかし、病気の進行に伴い、在宅では痛みと呼吸のコントロールが難しく、眠れない状況が続いていたという。

入院後、「余命は3カ月です」と主治医は改めて告知。その言葉を2人は動じることなく受け入れた。そして2人の意思に基づき、病棟ではBSCに徹することを決め、主治医から緩和ケアチームに支援の依頼が入った。

それを受けたチームは、普段の活動を通じて、緩和ケアの意識が病棟に浸透していることから、痛みのコントロールは主治医や病棟看護師らに一任した。主治医の判断で、鎮痛剤を舌下剤からモルヒネの座薬に変更。薬を使ったときの変化を、病棟看護師が患者に丁寧に聞き、薬を調整した結果、痛みと呼吸困難が緩和。「眠れるようになった」と患者も笑顔を見せるようになった。

その一方で、西村は、「支えてくれた妻の話を聞いてやってほしい」という患者の希望に応え、妻との会話に努めた。「私、ガーデニングが趣味でしてね…」。夫婦が歩んだ歴史。夫に寄り添い続けた経緯。花に囲まれて食事を楽しんだこと…。妻の口から言葉があふれてくる。「そうでしたか。それはご主人もうれしいでしょう。本当にお幸せですね」。最期を目前にして妻の安寧を願う患者の思い、その妻の言葉を受け止め、これまでの献身ぶりを西村は心から讃えた。

別れは、思いがけず早く訪れた。救急搬送の3週間後、患者は静かに息を引き取った。その表情は、実に穏やか。最期を迎える間際、患者は「もう充分だ。よくやってくれた。ありがとう」と、病棟スタッフへの感謝の言葉を口にした。そして妻は、「あなたに会えてよかった」と西村に告げた。3週間で充分話せたのは、わずか3回。「もっと時間が取れたらよかった」。西村は今でもそう感じている。ただ、それでも、「少しはお2人の支えになれたかな」とつぶやく。

救急搬送されてきた末期の食道がん患者。「積極的な治療は望まない」。患者と家族の希望を受け、病棟とチームが動いた。主治医、病棟の看護師が鎮痛剤を調整しながら患者の痛みを緩和する。そして、チームに所属するがん性疼痛の認定看護師は、患者の妻に寄り添った。

足らざる医療を提供することが、自治体病院の使命。

高齢化の進展によりがん患者は増加を辿り、これに伴って緩和ケアへのニーズも高まっている。だがそのための入院病棟が、西尾市民病院と同じ二次医療圏の安城市と刈谷市にはあるものの、西尾市内には一つもない。というのも、緩和ケアには集学的な治療機能が必要であり、充実した医療資源が不可欠だからだ。その状況を睨み、西尾市で最も多くの医療資源を有する病院として、西尾市民病院は地域に足らざる部分を補うべく、平成21年に緩和ケアチームを発足させた。

発足に至る経緯は、一人の外科医と後にがん化学療法看護認定看護師となる一人の看護師によって続けられた、がんの終末期に対する草の根的な活動にあった。院内で緩和ケア講習会が開催された際に、その看護師が院外で受講してきたスピリチュアルケア(※)の研修についての伝達報告を行った。それを聞き衝撃を受けたのが、西村である。「うちの病院にこんな分野を勉強している人がいるんだ」。彼女自身、麻薬によるがんの疼痛コントロールに関心を持ち始めていたのだ。

※患者の身体的・精神的・社会的苦痛を受け止め、霊的な側面を含め患者に寄り添うケア。

「君が認定看護師を取得したら、一緒に緩和ケアチームを作ろう」。2人に背中を押され、西村は、がん性疼痛看護認定看護師をめざした。そして、病院側も、西村の資格取得に合わせチーム発足に動いた。

現在、チームのリーダーを務める川崖拓史精神科部長は、「チームの取り組みはまだ60点」と言う。「入院患者支援がほとんどで、外来患者さんまで手が回らず、相談ルートも確保されていないのが課題です。今後は、外来患者さんの相談窓口開設を考えていきたい」と川崖。加えて、西村が地域の訪問看護師と利用者宅に同行訪問するなど、在宅医療従事者への支援にも力を注ぐ考えだという。西村も「私が病院と地域を繋ぐ布石になれたら」と思いを語る。

地域のなかで、がん患者の生活の質を高めるケアの担い手として。西尾市民病院・緩和ケアチームは、患者とその家族に寄り添い続けていく。

緩和ケアのニーズが増える一方で、それを提供できる施設はごく限られるという現実。西尾市民病院では、この現実に立ち向かい、急性期病院でありながら緩和ケア領域にも踏み込み、がん患者の生活の質向上を追求し続けている。

COLUMN

  • 緩和ケアチームのリーダー・川崖拓史精神科部長は、「緩和ケアの理想である切れ目のないケアを実践するためには、患者さんの意思を大事にした医療スタッフ間の情報共有が必要です。そのためにもACPを浸透させたい」と話す。ACPとは、〈アドバンス・ケア・プランニング〉の略称。がん患者や家族が、医療チームと相談を繰り返しながら、治療方針を決めていく取り組みのことだ。
  • ACPでは、自分の意思で何かを決定できなくなる場合に備え、健康なうちに希望する治療方法などを決定していく。ただ、方針を一度決めたら終わりではなく、医療スタッフと考え、必要があれば書き直しを行う。死から目を背けず、元気なうちから準備をすることで、生き方を見つめ直すことにも繋がるという。「望ましい終末期のあり方として厚生労働省も提唱しています。当院でも仕組みを作り上げていきたい」と川崖部長は話す。

BACK STAGE

西尾市民病院がめざす、新たな公益性。

  • 同院の緩和ケアチームがめざすのは、自ら動くことではない。院内全体に緩和ケアを浸透させ、外来でも、病棟でも、各スタッフがその意識を持って、患者や家族にアプローチできることが理想だと考えている。西村は「あえてチームの私たちが関与しなくてもいい。そんな状況になりつつあると感じています」と話す。
  • そして、生活の質を向上させる取り組みを、院内だけでなく地域にも広げていくこと。それが、地域に根差した西尾市民病院の公益性に繋がっていく。
  • 新たな時代の自治体病院が果たすべき公益性とは何か。もちろん、救急・急性期を担う基幹病院としての役割は、今後も必要不可欠である。だが、高齢化が進展するなか、それだけで地域の医療ニーズを満たせるわけではない。西尾市民病院では、キュア領域に留まらずケア領域にも踏み込み、地域に足らざる医療を補うことで、より広い公益性を担保しようと努めている。

プロジェクトリンクト広報局

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地域医療機関や企業・教育機関等、看護職のサポーターを引き受けていただいた皆様と一緒に、看護職のためのライブ感のたっぷりな有意義な情報をお届けします。

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